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TAX&ACCOUNTING MALL会社経営M&Aとは? 売却側の視点で目的・手法・メリット・進め方を解説
2022.5.23 / 更新日:2022.05.23

M&Aとは? 売却側の視点で目的・手法・メリット・進め方を解説

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M&A(エムアンドエー)と聞くと、大企業だけの話?と思う方もいらっしゃるかもしれません。

少子高齢化の日本においては、国内市場の縮小と、経営者の高齢化による後継者不足が深刻です。
事業継承の一手段として、中小企業でも年々M&A(エムアンドエー)件数が増えてきています。

今回は、売却する側の視点から、

  • M&Aの目的
  • M&Aの手法
  • M&Aのメリット・デメリット
  • M&Aの進め方
  • M&Aの費用・税金
  • M&Aを成功させるためのポイント

などについて、べリーベスト税理士事務所が分かりやすく解説していきます。

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1、M&A(エムアンドエー)とは

(1)M&Aの定義

M&A(エムアンドエー)とは、「Merger and Acquisitions」の略で、「企業の合併・買収」を意味します。
広義の意味では、経営を統合する「合併」や「買収」だけでなく、「分割」や「業務提携」「資本提携」なども含む場合もあります。

(2)M&A(エムアンドエー)の目的

売却側のM&Aの目的には、以下3種類あります。

①事業承継型

事業承継型のM&Aには、具体的に以下の目的があります。

  • 後継者不足解消のため
  • 従業員の雇用を守るため
  • 取引先への影響を最小化するため

経営者が高齢で後継者がいない場合、事業存続ができず、従業員の雇用も守れなくなり、取引先への影響も考えられます。
以上のような状態を解消するために、M&Aを検討する経営者が増えています。

②救済・事業再生型

救済・事業再生型のM&Aには、具体的に以下の目的があります。

  • 不採算事業を整理するため
  • 経営不振に陥った時に救済してもらうため

複数の事業を行っている企業で、一部の事業が赤字で不採算になった場合、企業全体の成長が鈍化してしまいます。
不採算事業から撤退するケースも珍しくありません。
しかし、その不採算事業も、他の企業から見たら「やり方次第では利益が確保できそう」「自社の既存事業とのシナジーがありそう」といった具合に、魅力的案件に映るケースもあります。
不採算事業に関心のある企業とうまくマッチングできれば、売却益が入り、既存事業や次なる新規事業の投資へ回すことができるようになります。以上が、不採算事業の整理です。
また、 M&Aは、経営不振に陥ってしまった企業を救済する目的で行われることもあります。
成立すれば、倒産を免れたり、契約条件にもよりますが、従業員の雇用を守ったり取引先への影響を最小限にできたりする可能性も高まるでしょう。

③投資回収型

投資回収型のM&Aには、「イグジットの一手段として」という目的で行われることがあります。
ベンチャー企業などで新規事業をインキュベートしていて、まだ投資回収までは及ばないが大きく成長が見込まれる場合が当てはまります。
その価値を認めてくれる相手先が見つかれば、事業が将来生み出す「将来価値」も見込んだ価格で売却できる可能性があるのです。
簡単にいうと、売却益を元手に、次の新たな起業ができる、というものです。

ベンチャー企業のイグジット(※)方法として、日本ではIPOを目指す企業が多いですが、米国ではこのようなM&Aの方が活用されています。

※イグジット・・・ベンチャービジネスや企業再生などにおける投資回収のこと。創業者やファンドがIPO(株式公開)や、M&Aで株式を売却し、利益を得ること。

2、M&A(エムアンドエー)の手法・形態(スキーム)

M&A(エムアンドエー)の手法は、大きくは「合併」「買収」「分割」の3つに分けられます。

(1)合併

「合併」とは、複数の会社が、契約によって1つの法人となることです。
手法としては「吸収合併」と「新設合併」があります。

①吸収合併

吸収合併は、合併する会社のうち1社が他の会社を吸収して存続し、他の会社は解散する手法です。
吸収した会社は、吸収された会社の資産・負債、従業員、すべての権利義務を引き継ぎます。
新設合併に比べると、スピーディーに実施できます。

②新設合併

新設合併とは、新しく会社を設立し、そこに消滅させた会社が持っていたすべての権利や義務を引き継がせる手法をいいます

それぞれの会社の資産・負債、従業員、権利義務などすべて新設会社に引き継がれます。
吸収合併と比べると、新会社設立の手間と、許認可や資格が承継されないため、手続きが煩雑となりやすいです。
さらに、上場企業だった場合は、新設会社で再度審査を受ける必要があります。

(2)買収

M&Aにおける「買収」とは、買い手にとっては、株式=経営権の取得や、事業資産の取得のことです。
一方で、売り手にとっては、株式譲渡や事業譲渡のことをいいます。

①株式譲渡

株主譲渡は、買い手にとっては「株式取得=経営権取得」を示します。具体的には、ある会社が他の会社を支配する目的で議決権の概ね過半数以上を買いとることです。

「株式譲渡」は、売り手側の発行済株式を、買い手側に譲渡する手法です。
売り手側の全ての資産が買い手側に引き継がれるため、会社は今まで通り存続することになります。
「株式譲渡」は手法がシンプルなので、中小企業のM&Aではよく用いられます。

②事業譲渡

事業譲渡は、買い手にとっては、「事業取得」となります。具体的には、ある事業部門を買い取ることです。

「事業譲渡」は、売り手側が所有する事業の一部または全部を、買い手側に譲渡する手法です。
個別事業の承継となるため、譲渡する資産を決める必要があります。
最大のメリットは、売り手からすれば不採算事業だけを整理できること、買い手にとっては、必要な事業だけ買い取れることです。

(3)分割

「会社分割」は、買い手側が売り手側の事業資産を取得することです。
会社分割には、「吸収分割」と「新設分割」の2種類あります。

①吸収分割

「吸収分割」は、売り手側の一部事業を切り分けて、その権利・義務を買い手側に承継させる方法です。
売り手側は、対価として現金や買い手企業の株式等を取得します。
新設分割に比べると新たな会社を設立する手間を省けるので、吸収分割の方が移転はスムーズです。

②新設分割

「新設分割」は、売り手側の一部事業を切り分けて、その権利・義務を新たに設立される会社に承継させます。
売り手側は、対価として新たに設立された会社の株式を取得します。
売り手側が非上場企業の場合は、その株式のすべてを現金化することが難しく、設立した新会社が損をするリスクがあります。
「新設分割」は、主に上場企業のM&Aで使われている手法です。

3、M&A(エムアンドエー)のメリット・リスク

売却側としてのM&Aのメリットとリスクを見ていきましょう。

(1)メリット

売却側のM&Aのメリットは、以下のとおりです。

  • 事業承継問題(後継者不在問題)の解決
  • 従業員雇用維持の可能性が高い
  • 取引先維持の可能性が高い
  • 事業成長・拡大の可能性が高い
  • 売却による収入で、創業者の利益が確定する

(2)リスク

売却側のM&Aのリスクは、以下のとおりです。

  • 安値で買収される(想定どおりの会社に価値がつかず、売却額が低い)
  • 従業員の雇用条件が悪化する
  • 取引条件見直し等で取引先との関係性が悪化する
  • 従業員のモチベーション低下
  • 優秀な人材の流出
  • 企業文化の不一致などにより組織がうまく機能せず、事業成長の妨げになる
  • 買収後にデューデリジェンス(事前調査)で伝えきれなかった問題が発覚し、買収側から損害賠償を請求される恐れがある

4、M&A(エムアンドエー)の進め方(流れ・手順)

M&Aを検討・実施する場合、売却側は以下の手順で進めていきます。

(1)事前準備

① 目的の明確化

自社の現状分析・整理、今後の方向性など、”なぜM&Aするのか”目的を明確にします。
目的を明確化したうえで、M&Aのどの手法がベストか決めていきますが、この段階からM&A専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

② M&A専門家との仲介契約(アドバイザリー契約)

M&Aの意向が固まったら、M&A専門家と仲介契約(アドバイザリー契約)を交わします。
仲介契約を交わしたら、具体的に手続きを進めていきます。

③ ノンネームシート作成・開示

自社の簡略な情報のみ記載した、ノンネームシート(開示資料)を作成します。
M&A仲介会社からの買い手側へ紹介してもらう際は、自社が特定されないように会社名を伏せた「ノンネームシート」を使用します。

④ 秘密保持契約(NDA)締結

買い手側の会社が自社のM&Aに前向きに検討する意思表示をしてきたら、秘密保持契約書を締結し、より詳細な会社の情報を開示していきます。

(2)交渉・検討

① 企業概要書(IM)の作成・提示

会社概要や事業内容、財務データ、雇用状況などをまとめた企業概要書を作成します。
買い手は、企業概要書をもとに、条件交渉や買収監査(デューデリジェンス)などの次のステップに進むかどうかの判断をします。

※IMとは、Information Memorandum(インフォーメーション・メモランダム)の略です。

② トップ面談

買い手側が企業概要書を精査後、本格的に契約書を交わす前段階として、売り手側と買い手側双方の経営陣が直接面談します。
これは、条件交渉の場ではなく、M&Aに向けての「意思確認」と「お互いをよく知る」ことが目的です。

③ 基本合意書の締結

トップ面談が順調に進んだら、M&Aの成約に向けて仮の契約を締結します。
一定期間の「独占交渉権」を発生させるため、まずは「意向表明書」を出した上で、基本合意書を締結しするのです。
基本合意書には、「いつ」「いくらで」「どのように」会社を譲渡するかを明記していきます。

※独占交渉権とは、その期間、他の候補者との接触は禁止されるものです。

④ 買収監査(デューデリジェンス)

買収監査は、Due Diligence(デューデリジェンス)と呼ばれます。

M&A実施の最終判断をするにあたり、買い手側が、売り手側から提供された資料や情報の真偽を確かめるために行われるものです。
デューデリジェンスでは財務や法務、会計など、売り手側のあらゆる情報を確認していく必要があります。
売り手側は、買い手側に要求された資料や情報の提供を行います。

⑤ 最終条件の交渉

デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な条件を検討した後、最終契約の条件交渉を進めます。

(3)契約締結(クロージング)

最終条件の交渉後、双方で合意がされれば「最終契約書」を締結します。
株式譲渡であれば株式譲渡契約書、合併であれば合併契約書のようにスキームによって名称は異なります。

5、M&A(エムアンドエー)にかかる費用・税金

M&Aの事前検討から契約締結(クロージング)までに、売り手側に発生する費用は、M&A専門家などに支払う費用と税金があります。

(1)費用

M&A専門家には、事前相談料、着手金や最低手数料などのイニシャルコストを支払い、場合によっては中間報酬が発生し、M&Aが成立すれば売却金額に応じて成功報酬を支払うことになります。

(2)税金

売却すれば、売却益が入りますので、それに対しての税金が発生します。
個人の株主が保有する株式を譲渡した場合は、株式の売却益に対して所得税・住民税が課されます。
事業譲渡の場合は、売却した利益に対して、法人税が売却側の法人に課されます。

6、M&A(エムアンドエー)を成功させるための重要なポイント

M&Aは、契約締結が終了したら終わりではありません。
最も重要かつM&Aを成功に導くポイントは、契約締結後の経営統合にあります。

M&A成立後の統合プロセスのことを、PMI(Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)といいます。
PMIは、複数の会社を統合していく作業です。
それぞれの経営理念や組織文化・価値観などがかけ離れている場合、混乱や対立を招いたり、優秀な人材が流出したりするため、統合にかなりの時間を要することもあります。

PMIを成功させるためには、M&A成立前から成立直後にかけて、以下の点に留意することが重要です。

  • デューデリジェンスの段階で、M&A後に想定されるリスクの対策を計画する
  • それぞれの経営層が十分なコミュニケーションと意思統一を図る
  • 戦略と経営方針を明確にまとめ上げる
  • 経営方針を従業員に周知徹底する
  • リーダーは明確かつ具体的な目標に落とし込む
  • 適切な人材配置を行う(現場をとりまとめ推進できるリーダーの抜擢など)

まとめ

今回は、M&Aを、売却側の視点でみていきました。

M&Aには多くのメリットがあります。
一方で、条件よく契約が成立した場合でも、PMIでそれぞれの会社の統合がうまく進まない可能性もあります。
期待されたシナジー効果が出ないどころか、M&A前よりも悪化するリスクも潜んでいるのです。

リスクを少しでも軽減すべく、準備段階から信頼できる専門家の意見を聞き、自社にとっての最適な相手とマッチングできるように多角的に検討を進めていきましょう。

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この記事の監修者

荒井悠輔
荒井 悠輔

べリーベスト税理士事務所 経営企画室シニアマネージャー
株式会社ベリーベストサポートオフィス 代表取締役
資格の大原税理士講座簿記論講師、
文化服装学院ファッション流通高度専門士課タックスアカウンティング講師を務める。
筑波大学大学院において、法人税法及び国際税務を研究し、修了。
現在は経営企画、セミナー、講師、論文・記事の執筆を中心に活動を行っている。