電子帳簿保存法とは?ポイントと猶予について
電子帳簿保存法は1998年に施行された法律で、何度か改正を経て直近では2022年にも改正されました。この改正のうち、電子取引における電子データ保存義務化については関心が高いところでしょう。
電子取引における電子データ保存の義務化(=電子帳簿保存法の完全施行)は、2023年12月31日まで猶予期間が設けられていますが、2024年1月からは電子帳簿保存法は完全施行となり、すべての事業者が電子帳簿保存の対応を余儀なくされることとなります。
この記事では、電子帳簿保存法の基本や改正内容、対応方法について、べリーベスト税理士事務所が分かりやすく解説していきます。
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1、電子帳簿保存法とは?
(1)電子帳簿保存法が制定された経緯
電子帳簿保存法は、1998年の税制改正の一環として制定されました。これは各産業でデジタル化が進むなかで、企業の税務・会計分野においてもIT技術を活用したコスト削減や業務の効率化へのニーズが高まっていた、という背景があります。しかし、電子帳簿保存法が制定された当初は、電子データ保存するための要件が厳しく、なかなか導入が進みませんでした。
(2)電子帳簿保存法の概要
次に、電子帳簿保存法の概要を確認していきましょう。
電子帳簿保存法(1998年7月に施行)とは、国税関係の帳簿(仕訳帳や総勘定元帳など)や、国税関係の書類(決算関係書類、請求書、領収書など)について、紙文書以外に電子データ(電磁的記録)による保存を認めるものです。電子帳簿保存法で定められている要件を満たすことで、従来は紙文書での保管が義務付けられていた帳簿書類を電子データとして保存が認められるようになりました。
①電子帳簿保存法の対象者
電子帳簿保存法は、企業の規模や、法人か個人事業主かといった違いにかかわらず、すべての事業主が対象となります。特に、新たに義務化される電子取引における電子データ保存については、すべての事業者が、遅くとも猶予期間が終わる2023年12月31日までに対応・実行する必要があります。
②電子帳簿保存法の3つの保存区分
電子帳簿保存法の主な保存区分は、電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引データ保存の3種類に分けられます。
- 電子帳簿等保存:会計ソフト等で作成した帳簿を電子データのまま保存する
- スキャナ保存:紙で発行・受領した書類をスキャンして画像データとして保存
- 電子取引データ保存:電子的に授受した取引情報をデータのまま保存
※電子取引に該当するものは、インターネット通販・EDI取引・電子メール・クラウドサービスなどがあります。
③電子帳簿保存法の2つの要件
- ③-1. 真実性の確保:
真実性の確保とは、保存したデータの改ざんを防ぎ、訂正や削除の事実内容を確認できる状態にしておくことです。以下4つのうち、いずれかの措置を行いましょう。
・タイムスタンプをデータ受領の2か月以内に付与する
・タイムスタンプを書類の発行者側で付与し、保存を行う者または監督者に関する情報を確認できるようにしておく。
・データを改ざんしたり削除したりできないシステムを利用する
・改ざん防止等のための事務処理規定を作成し、それに沿った運用を行う
- ③-2. 可視性の確保:
可視性の確保とは、保存したデータを明瞭な状態で閲覧・出力することができ、必要に応じて速やかに検索できる状態にしておくことです。
- 検索機能を確保する(下記3つの検索をできるようにしておく)
・取引年月日、取引金額、取引先で検索できる
・日付または金額の範囲指定で検索できる
・2つ以上の任意の検索項目を組み合わせて検索できる
- 見読可能性の確保:
帳簿に係る電磁的記録の保存等をする場所に、その電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力できるようにしておくこと。
④電子帳簿保存法の対象書類
- 電子帳簿等保存の対象書類
・国税関係の帳簿:仕訳帳、総勘定元帳、売掛帳、買掛帳、現金出納帳、固定資産台帳など
・決算関係書類:貸借対照表、損益計算書、棚卸表など
・取引関係書類:注文書、見積書、契約書、領収書など
上記3種の書類を電子的に作成した場合は、電子データとして保存することが可能です。
なお、データを出力して紙で保存することもできます。ただし、取引関係書類について、取引先に電子的に交付した場合は、以下の「電子取引データ保存」の対象になるため電子データ保存が必要です。
- スキャナ保存の対象書類
契約書 納品書 請求書 領収書 見積書 注文書 検収書など。
これらの書類は、スキャンして電子的に保存することも、紙のまま保存することも可能です。
- 電子取引データ保存の対象書類
注文書や契約書、見積書、領収書などのほか、送り状など、電子データでやりとりを行った取引書類が該当します。
これらの書類は、受信した場合も送信した場合も、猶予期間が終わる2023年12月31日までには電子的に保存しなければなりません。
2、 <改正>電子帳簿保存法とは?
(1) <改正>電子帳簿保存法の背景・目的
昨今ではコロナの影響もあり、デジタル化が急速化し、業務のあり方も大きく変化してきています。このような状況の中でより多くの事業者が、紙の帳簿や書類から脱却し業務のデジタル化を推進しやすくするために、2022年1月に電子帳簿保存法の改正が行われました。様々な緩和策により、帳簿書類を電子化する事業者の増加が期待されています。
(2)<改正>電子帳簿保存法のポイント
この改正では、より帳簿書類を電子化しやすくするために電子帳簿の保存要件が大幅に緩和されるとともに、電子取引に関するデータ保存の“義務化”が盛り込まれました。改正前と改正後で何が変わったのか、主なポイントをみていきましょう。
①事前承認制度の廃止
・改正前:スキャナ保存あるいは電子取引データ保存を行うためには、税務署への事前申請および承認が必要。
・改正後:税務署への事前申請・承認が不要。
②検索機能要件の緩和
・改正前:「取引年月日」「勘定科目」「取引金額」「取引先」など、帳簿の種類に応じた検索要件を設定する必要あり。さらに「日付」「金額」などの範囲指定や、複数項目を条件として検索できる機能が必要。
・改正後:検索要件が「取引年月日」「取引金額」「取引先」のみ。
ただし、検索機能不要の対象者は、基準期間(2課税年度前)の売上高が「1,000万円以下」の事業者。
※「検索機能」とは、
保存した電子帳簿・書類のなかから、特定の電子データをすぐに取り出せるように「検索」するための機能のことです。取引が多ければ多いほど、取り扱う電子帳簿や書類が膨大な量になるため、後から特定のデータを取り出せるように、あらかじめ「取引年月日」「取引金額」「取引先」などの項目を入力しておく必要があります。入力した項目については、調べたいときに検索して取り出すことが可能となります。
例えば、帳簿を保存するシステムの中で、Googleの検索窓のように検索項目を入力する窓枠を作っておき、そこに検索したい「取引年月日」を入力すると、その年月日の書類だけを検索することができる(=データを取り出せる)、といったしくみで、EXCELやWordの検索機能に近いです。
※「基準期間」とは、
個人事業者については電子取引が行われた日の属する年の前々年の1月1日から12月31日までの期間をいい、法人については電子取引が行われた日の属する事業年度の前々事業年度をいいます。
※その後、令和4年12月23日に閣議決定された令和5年度の税制改正大綱に、電子帳簿保存法の改正が盛り込まれ、下記のように変更になりました。令和6年1月1日以後にやり取りする電子取引データについて適用されます。
・検索機能不要の対象者の売上高が「1,000万円以下」から「5,000万円以下」に拡大されます。
要するに、基準期間売上高が「5,000万円以下」の対象者は検索機能が不要となります。
・電子取引データをプリントアウトした書面を、取引年月日及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出することできるような状態にしていると検索機能が不要となります。
さまざまな税制改正が盛り込まれていますが、その中の1つに「電子帳簿等保存制度の見直し」が入っています。
③タイムスタンプ要件の緩和
・改正前:領収書などを受領後3営業日以内に、受領者のサインや、スキャン、タイムスタンプの付与が必要。
・改正後:スキャンは受領から約2か月と概ね7営業日以内まで可能。受領者のサインも不要。データの訂正・削除履歴が残るシステムを利用すればタイムスタンプ付与は不要。
④適正事務処理要件の廃止
・改正前:不正防止目的の相互牽制の体制構築をし、定期的な検査が必要。チェックする際には紙の原本でチェックし、チェックが完了するまで紙は廃棄せず保管する。
・改正後:適正事務処理要件は全て廃止。
⑤電子取引の電子データでの保存の義務化
・改正前:電子データで受け取った電子取引については、紙出力して保存することが容認されていた。
・改正後:電子データで受け取った電子取引については、紙出力による保存は廃止され、電子データのまま保存することが義務付けられた。(「電子データのまま保存する」とは、電子メール等で受け取ったPDFなどのファイルを、印刷せずに、PDFなどのファイルのまま自社のサーバーやパソコンなどに保存することです。)なお、完全義務化までは猶予期間がもうけられてます。詳しくは「3.<改正>電子帳簿保存法の電子データ保存義務化の猶予について」をご確認ください。
※こちらも、令和4年12月23日に閣議決定された令和5年度の税制改正大綱の、電子帳簿保存法の改正により、下記のように変更になりました。
・電子取引の電子データを保存できない「相当の理由」が所轄税務署に認められた場合(事前申請不要)、保存できないので保存しなくてもよい。「相当の理由」とは、例えば資金面で会計ソフトの導入が難しいなどの幅広い理由も認められます。
・税務調査の際に、電子取引データのダウンロードを求め、それをプリントアウトした書面の提示・提出の求めに応じることができるようにしている場合、保存しなくてもよい。
⑥ ペナルティの強化
今回の改正によってさまざまな要件が緩和される一方で、不正行為の抑止策は強化されています。
電子データの記録事項に関する改ざん・隠ぺいなどが発覚した場合、通常課される重加算税の額にさらに当該申告漏れに対する税額の10%の金額が加算されます。また、電子取引の電子データ保存義務化に対して対応がなされていない場合、青色申告の取り消し処分が課される可能性もあります。
3、<改正>電子帳簿保存法の電子データ保存義務化の猶予について
「2」(2)⑤に記載した「電子帳簿保存法の電子取引データ保存」に関して、大企業でも施行までにデータ保存の対応が間に合っていない事業者が多く、中小企業などでは制度への理解が進んでいなかったため、完全義務化までに2年間の猶予が設けられることになりました。
(1)<改正>電子帳簿保存法の電子データ保存義務化の猶予期間とは?
「2年間の猶予」は電子化の準備期間です。
<改正>電子帳簿保存法は2022年1月1日から施行されていますが、この改正のうち、電子取引を行った際の電子データ保存義務については、電子化への準備期間として2023年12月31日までの2年間の猶予期間が設けられています。この猶予期間を経て、2024年1月からは、電子帳簿保存法が完全施行されることになります。
(2)<改正>電子帳簿保存法の電子データ保存義務化の猶予要件とは?
電子帳簿保存法の電子データ保存義務化の猶予要件は、以下を満たす事業者です。
尚、猶予を受けるための届出等は不要です。
・保存要件に従うことができない、やむをえない事情があると認められた場合。
・保存すべき電子データを書面で出力して税務調査等の際に提示できるように適切に保存してある場合。
(3)<改正>電子帳簿保存法の電子保存義務化の猶予内容とは?
電子帳簿保存法の電子データ保存義務化の猶予内容は以下の通りです。
・電子保存できない場合は書面での保存を容認する
・書面は規則性があり、文字を識別できること
・書面は税務調査などで提示できること
・電子保存できない事情を説明できること
以上、電子取引の保存要件を満たせない止むを得ない事情がある場合には、今までどおり書面での保存を認めるというものですが、猶予期間が終了する2023年12月31日までには電子取引要件を満たす運用体制を整える必要があります。
4、電子帳簿保存法に対応するメリットと注意点
今まで紙の帳簿や紙の書類の保管が常態化してきた中で、電子データ保存へ移行していくためには、社内業務の見直しやオペレーション変更、経理業務のシステム化対応などが必要になってきます。
しかし、社会のデジタル化の潮流の中で、各事業者がそれに対応していくメリットも非常に大きいです。ここでは、どのようなメリットがあるのか、そして気を付けるべき注意点は何か、をみていきましょう。
(1)書類を電子データ保存するメリット
コスト削減や業務効率化は、多くの企業が抱える課題ですが、帳簿や書類の電子化によってそれらの課題の改善が見込めます。ここでは、電子帳簿保存を行う4つのメリットについてご紹介します。
①コスト削減
帳簿類や取引書類は、7年程度の長期間にわたって保管義務があります。それを全て紙で保管するためにはそれ相当の保管スペースが必要となり、倉庫等の賃貸料などのコストが発生しているものと思われます。今後は電子保管によりペーパーレスが進み、コスト削減が可能です。その他、ファイリングや管理にかかる人件費、紙代、インク代、書類の郵送費なども、電子化によりコスト削減が見込めます。
②システム化による業務効率化
帳簿や書類を紙ではなくデータで保管することで、以下業務の削減も可能です。
・回覧・承認業務
・書類の郵送作業、書類の開封や仕分け作業
・ファイリング作業(ファイル、ラベル作成、ラベル貼り、箱詰めなど)
・検索にかかる時間(必要な書類を、保存してある場所などから見つけるまでの作業時間など)
・廃棄時の手間(保管年数経過後の書類は溶解処理をするなどの手間とコスト)
③セキュリティ強化
紙で保管する場合、情報漏洩、改ざん、破損、紛失リスクがありますが、電子的に保存したデータであれば、あらかじめ限られた従業員以外はアクセスできないようにロックをかけることが可能です。
④テレワークの促進
電子データのやりとりであれば、出社頻度を減らしテレワークも可能になります。
(2)書類を電子データ保存する際の注意点
帳簿や書類の電子データ保存にはメリットも多い一方でデメリットもあります。2024年1月1日以降は電子取引における電子データ保存は義務になりますので、以下3点は注意しておきましょう。
①システム導入のコスト
帳簿や書類の電子データ保存にあたってシステムを導入する場合はコストがかかります。例えばクラウドサービスを利用する場合であれば、導入時の初期費用と月額費用が発生します。利用したいサービスの内容などをよく吟味し、適したシステムを検討する必要があります。
②管理体制整備
電子的にデータを保存するためには、それに対応できるように業務フローを整備するとともに、管理体制を整える必要があります。例えば、システムを導入する場合、どこまでの処理をシステム化するのか、システムへのアクセス権設定をどうするのか、データ管理方法などルールを決めて運用しなければなりません。
③システムトラブルリスク
帳簿や書類を電子データで保存する場合、システムトラブルも想定されます。システム障害によりデータが閲覧できなくなったり、間違って削除してしまうことも考えられます。さらに、自社のネットワークトラブルなども考えられますので、システムトラブルが起こったときの対処方法など、事前に検討しておく必要があります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
電子帳簿保存法の改正によって、電子帳簿等の保存やスキャナ保存の要件が大幅に緩和されました。そして、2024年1月からは電子取引の電子データ保存が義務化され、すべての事業者が対応を余儀なくされます。 (ただし、2022年12月に電子帳簿保存法の改定の見直しが入り、請求書・領収書など電子取引に関しては「相当の理由」があれば、一定の保管条件を満たすことを条件として紙保存も容認されることになりました。)
ポイントをまとめると
① 帳簿や決算書などは、紙・電子保存任意。
② 請求書・領収書など紙取引のものは、紙・スキャナ保存任意。
③ 請求書・領収書など電子取引のものは、電子保存が義務。紙保存は容認されない。
しかしながら、今後もデジタル化の流れはますます加速していきますので、時代に対応するためにも、業務効率化のためにも、社内のデータ管理体制や業務プロセスの見直しを行い、電子化を推進していきましょう。
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