役員報酬の適切な決め方とは?税務調査に備えて知りたい4つのこと
「役員報酬って、いくらでもいいのかな?」
「もらえるだけもらって、大丈夫かな?」
このような悩みを持つ経営者の方々は、少なくないのではないでしょうか。
しかし、役員報酬について、1つ伝えておかなければならないことがあります。
役員報酬は、税務調査での重点チェック事項だということです。
中小企業では、利益調整(税金対策)の手段として利用されることが特に多いためです。
この記事では「役員報酬は多く出したいが税務調査で指摘されるかも……」とお悩みの経営者の皆さまへ向けて、
- 役員報酬とは
- 役員報酬の決め方
- 税務調査に向けた準備と対策
について、解説していきます。
この記事を読めば、役員報酬について詳しくなることに加えて、税務調査に恐れずに役員報酬を決めることができるようになるでしょう。
ぜひ、最後までご覧ください。
本記事は、べリーベスト税理士事務所の公式YouTubeチャンネルで公開されている以下の動画と連動しておりますので、併せてご覧ください。
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1、役員報酬の決め方について知る前に|役員報酬とは
(1)役員報酬とは
役員とは、法人の代表者や会計参与、監査役などを指します(No.5200 役員の範囲―国税庁)。
従業員には労働の対価として「給与」を支払いますが、役員には「役員報酬」を支給します。
役員報酬は、支給方法が法人税法に定められており、あてはまらないものは損金(税務上の費用)に算入できません。
仮に自由に決められたとしたら、多額の役員報酬で損金を増やし、法人税をゼロにすることも可能だからです。
よって、「経営者だから」といって、好き勝手に報酬を受け取ることはできません。
「(2)役員報酬として損金算入できるもの」では、損金算入ができる支給方法を紹介します。
(2)役員報酬として損金算入できるもの
役員報酬として損金算入できるものとしては、次のようなものがあります。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
それぞれについて、詳しくみていきましょう。
①定期同額給与
―定期同額給与とは
役員報酬として損金算入できるものの1つ目は、「定期同額給与」です。
役員報酬の支給の原則的な方法です。
その名のとおり、「定期」的に「同額」を支給します。
以下の2つが、損金算入の要件です。
- 1ヶ月以下の一定期間ごとに支給していること
- 支給時期における支給額が同額である
支給のためには、事前に株主総会などで決議をする必要があります。
税務調査では「議事録」の提出を求められるので、忘れずに記録しておきましょう(No.5211 役員に対する給与―国税庁)。
―定期同額給与を変更する場合
支給額の変更は、以下の3つタイミングで行えます。
- 事業年度開始日(期首)から3か月以内
- 役員の地位・職務の変更などやむを得ない事情
- 経営状況の悪化など
基本的には「期首から3か月以内」に開催する株主総会などで変更することになります。
変更時期を逃すと、原則1年間は報酬額を変えられませんので注意しましょう。
②事前確定届出給与
―事前確定届出給与とは
役員報酬として、損金算入できるものの2つ目は、「事前確定届出給与」です。
あらかじめ支給の「時期」と「金額」を定めて支給します。
役員への賞与をイメージするとわかりやすいでしょう。
適用には株主総会などでの決議と議事録が必要です。
「事前確定届出給与に関する届出書」も税務署へ提出します。
届出をせずに支給した場合は損金算入できないので、注意が必要です(No.5211 役員に対する給与―国税庁)。
―届出の期限
原則として、以下のうちいずれか早い日が届出期限となります。
- 株主総会などで決議した日から1か月を経過する日
- 期首から4か月を経過した日
上記のほか、法人新設や臨時的理由で届出する際の期限は、国税庁が公表している[手続名]事前確定届出給与に関する届出を確認してください。
―届出の変更をする場合
届出内容を変更する際は、「事前確定届出給与に関する変更届出書」を税務署へ提出します。
ただし、変更ができるのは以下の理由の場合のみです。
- 役員の地位・職務の変更などやむを得ない事情
- 経営状況の悪化など
詳しくは、「[手続名]事前確定届出給与に関する変更届出―国税庁」を確認してください。
③業績連動給与
―業績連動給与とは
業績連動給与とは、利益の状況などを基礎にして、支給額を定められるものです。
―業績連動給与として損金算入するための要件
業績連動給与を損金算入するための適用ハードルは高くなっています。
具体的には、以下の要件を満たさなければなりません。
- 同族会社に該当しない法人である
- 給与の算定は、客観的な指標(有価証券報告書)に基づいていること
- 給与の算定方法を開示する など
(参照:No.5211 役員に対する給与―国税庁)
(3)役員報酬の適正額とは
①役員報酬に「適正額」はあるの?
損金算入をするには、前述した3つの方法に従い、かつ、適正額を支給しなければなりません。
法人税法第34条第2項に「不相当に高額な部分の金額は、損金に算入されない」という規定があるためです。
「不相当に高額」かどうかは「実質基準」と「形式基準」で判断します。
②役員報酬が適正かどうかの判断基準
―実質基準
税務調査では、以下の4つの点を確認して、報酬額が適正かどうかを判断されます。
チェックポイント | 税務調査の内容 |
役員の職務内容 | 実際の職務内容、勤務実態(名義だけの役員ではないか) |
法人の収益状況 | 赤字にもかかわらず多額の役員報酬を支給していないか |
使用人(従業員)の給与との差 | 比較して不相当に高額ではないか |
同規模・同業他社の役員の報酬金額 | 比較して報酬が適切か |
実質基準では、「〇円以上なら高額」という判断はされません。
税務調査で否認されないために、合理的に報酬額を算定したことをアピールできるようにしておきましょう。
―形式基準
定款の規定、株主総会などで定めた支給額の限度額を超えているか否かで判断します(法人税法施行令第70条)。
2、役員報酬の決め方
(1)役員報酬を決めるまでの流れ
①株主総会で総額を決める
会社法第361条によると、定款に規定がない場合は、株主総会などで役員報酬を定めるとしています。
株主総会では総額だけを決定すればよく、各役員の報酬額は取締役会で配分してもかまいません。
②取締役会で各役員の個別の金額を決める
取締役会において、株主総会などで決定した報酬総額を各役員に配分します。
取締役会非設置会社の場合は、代表取締役が配分を決定するため、注意が必要です。
(2)役員報酬の金額の決め方の例
①とりあえず生活費を役員報酬にする方法
法人を立ち上げたばかりの時期は将来の見通しが不透明です。
ひとまず簡単に報酬額を決めたい場合は、必要な生活費分を報酬としておくとよいでしょう。
②予想される利益から役員報酬を決める方法
将来の利益予想から役員報酬を決める場合、大きな金額になれば役員個人が支払う所得税や社会保険料が増え、小さな金額であれば法人税額が増えます。
結果として税負担が重くなるケースもあるため、双方のバランスを考慮したシミュレーションをしてから決めましょう。
3、役員報酬についての税務調査に向けた準備・対策
前章まででは、役員報酬の概要や役員報酬の決め方について解説しました。
本章では、実際に役員報酬についての税務調査に向けた準備・対策について解説してまいります。
(1)役員報酬が税務調査においてよく見られる理由
役員報酬は、税務調査で指摘されやすい項目です。
役員報酬についての調査を甘くすれば、「利益がたくさん出たので報酬を増やし、税額を減らそう」という考えで、容易に利益操作が行われてしまうためです。
(2)役員報酬についての注意点と準備・対策
①みなし役員に対する報酬も役員報酬に含まれる
―みなし役員とは
税務上の役員の範囲には「1、(1)役員報酬とは」であげたもののほか、「みなし役員」があります。
みなし役員とは、形式上は従業員だけれど、実質的に経営に携わっている者のことです。
みなし役員と認定された場合、通常の役員と同じ取り扱いを受けます。
従業員給与として支払っているものも、「役員報酬」と扱われるため注意が必要です(No.5200 役員の範囲―国税庁)。
以下の要件に該当したら、会社法上では役員でない場合でも、法人税法上は役員とみなされ(みなし役員)、役員と同じ取り扱いになります。
- 役員として登記していないが、実質的に法人の経営に従事している相談役、顧問など
- 同族会社の使用人のうち、一定割合以上の株式を保有しており、経営に従事している者
「経営に従事している」とは、以下の業務が当てはまります。
- 経営方針の決定
- 従業員の採用
- 取引先の選定
―準備・対策
みなし役員は登記から見つけられませんので、税務調査で重点的にチェックされます。
以下の点を確認しておきましょう。
- 「実質的に経営に携わっているが、未登記」の人がいないか
- 妻や子などが使用人の同族会社の場合、業務の内容や株式の保有割合を確認
みなし役員となる人がいた場合は、株主総会などでみなし役員の分の役員報酬を忘れずに定めておきましょう。
②経済的な利益の供与も定期同額給与に含まれる
―経済的な利益の供与とは
役員に対する「金銭」による報酬のほか、
- 資産の贈与、低額譲渡した際の資産価額
- 債権の放棄、免除時における金額等
- 社宅などを無償、低額で提供した場合の賃料
など、実質的に給与を支給したとされるものは「経済的な利益の供与」です。
毎月おおむね一定のものは、定期同額給与に含まれます。
(参考:No.5202 役員に対する経済的利益―国税庁)
経済的な利益の供与をしたことで、役員報酬に関する決議において決めた役員報酬額を超えた場合、超えた部分の金額は損金算入できなくなります。
―準備・対策
金銭以外の「経済的な利益の供与」が発生することを見越し、株主総会などで多めに報酬額を設定しておくとよいでしょう。
4、役員報酬について悩んでいるなら税理士に相談しよう
ここまでで、役員報酬について解説しました。
役員報酬は、税務調査で指摘されやすい項目の1つです。
税務調査で役員報酬について指摘されそうだな……などという不安や悩みがあるなら、税理士へ相談することをおすすめします。
役員報酬について税理士へ相談するメリットとしては、次のようなものがあります。
(1)様々な観点から適切な役員報酬に関するアドバイス
損金算入できる役員報酬額は、法人の業種や規模により異なります。
また、「みなし役員」や「経済的な利益の供与」をうっかり見落とした場合は、追加で税金を納付しなければなりません。
一人社長の場合、個人の確定申告の相談もできるメリットもあるため、税理士にアドバイスをもらうことをおすすめします。
(2)役員報酬の変更をする場合の実務的な支援
役員報酬は合理的な方法で計算する必要があります。
役員報酬額を変更したいときは、税務調査で否認されないために、税理士の助言を受けるとよいでしょう。
まとめ
今回は、役員報酬について解説しました。
役員報酬は利益調整に利用されることが多く、税務調査では重点的に確認します。
損金算入のルールも厳密であるため、支給の方法や金額は慎重に決めましょう。
不安が残る際は税金のプロである税理士に相談することも検討しましょう。
税理士にご相談頂いた方がよい可能性があります。
初回のご相談は無料ですので
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