M&Aとは? 買い手(譲受け)側が知っておきたい6つのポイント
M&A(エムアンドエー)と聞くと、大企業だけの話?と思う方もいらっしゃるかもしれません。
少子高齢化の日本においては、国内市場の縮小と、経営者の高齢化による後継者不足が深刻です。
そこで、事業継承や事業再生の一手段として、売却・譲渡したい会社の件数が年々増えてきています。
今回は、M&Aの概要を解説したうえで、買い手側(譲受け)の視点から、
- M&Aの手法
- M&Aのメリット・デメリット
- M&Aの進め方
- M&Aの費用・税金
- M&Aを成功させるためのポイント
などについてべリーベスト税理士事務所が分かりやすく解説していきます。
税理士にご相談頂いた方がよい可能性があります。
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1、M&A(エムアンドエー)とは?
(1)M&Aの定義
M&A(エムアンドエー)とは、「Merger and Acquisitions」の略で、「企業の合併・買収」を意味します。
広義の意味では、経営を統合する「合併」や「買収」だけでなく、「分割」や「業務提携」「資本提携」なども含む場合もあります。
(2)M&A(エムアンドエー)の目的
買収(譲受け)側のM&Aの目的には、以下4種類あります。
①事業成長にかかる時間を買うため
事業を一から新たに始めるためには、膨大な時間とお金がかかります。
そこで、新たに始めたいと思っている事業領域で実績のある事業(あるいは会社)を買ってしまおう、というのが目的の1つです。
M&Aが成立すれば、事業を軌道に乗せるまでの時間を大幅に早めることができ、投資リソースの節約が期待できます。
②異業種への新規参入のため
自社が未参入の新たな業界へビジネスチャンスを見出した場合、元々その業界で事業を手掛けている競合に勝つのは至難の業です。
そこで、既に参入している会社を買収する、あるいは提携するというのは合理的な手法となります。
③事業規模の拡大のため
業界によっては、市場規模が縮小し、業界上位を占有する会社でなければ生き残れないため、会社の淘汰が進んでいます。
買収・合併・吸収など行い、事業規模を拡大することで、市場シェアを増やし、そのスケールメリットにより利益の確保が見込めるでしょう。
④相乗効果(シナジー)を得るため
自社に不足している技術やノウハウ、人材などを持つ会社と一緒になることで相乗効果(シナジー)を得ることができます。
加えて、業務の効率化、事業成長の加速化などが期待されるでしょう。
2、M&A(エムアンドエー)の手法・形態(スキーム)
M&A(エムアンドエー)の手法は、大きくは「合併」「買収」「分割」の3つに分けられます。
(1)合併
「合併」とは、複数の会社が、契約によって1つの法人となることです。
手法としては「吸収合併」と「新設合併」があります。
①吸収合併
吸収合併は、合併する会社のうち1社が他の会社を吸収して存続し、他の会社は解散する手法です。
吸収した会社は、吸収された会社の資産・負債、従業員、すべての権利義務を引き継ぎます。
新設合併に比べると、スピーディーに実施できます。
②新設合併
新設合併とは、新しく会社を設立し、そこに消滅させた会社が持っていたすべての権利や義務を引き継ぐ手法をいいます。
それぞれの会社の資産・負債、従業員、権利義務などすべて新設会社に引き継がれます。
吸収合併と比べると、新会社設立の手間と、許認可や資格が承継されないため、手続きが煩雑となりやすいです。
上場企業だった場合は、新設会社で再度審査を受ける必要があります。
(2)買収
M&Aにおける「買収」とは、買い手にとっては、株式=経営権の取得や、事業資産の取得のことです。
一方で、売り手にとっては、株式譲渡や事業譲渡のことをいいます。
①株式譲渡
株主譲渡は、買い手にとっては「株式取得=経営権取得」を示します。
具体的には、ある会社が他の会社を支配する目的で議決権の概ね過半数以上を買いとることです。
「株式譲渡」は、売り手側の発行済株式を、買い手側に譲渡する手法です。
売り手側の全ての資産が買い手側に引き継がれるため、会社は今まで通り存続することになります。
「株式譲渡」は手法がシンプルなので、中小企業のM&Aではよく用いられます。
②事業譲渡
事業譲渡は、買い手にとっては、「事業所得」となります。具体的には、ある事業部門を買い取ることです。
「事業譲渡」は、売り手側が所有する事業の一部または全部を、買い手側に譲渡する手法です。
個別事業の承継となるため、譲渡する資産を決める必要があります。
最大のメリットは、売り手からすれば不採算事業だけを整理できること、買い手にとっては、必要な事業だけ買い取れることです。
(3)分割
「会社分割」は、買い手側が売り手側の事業資産を取得することです。
会社分割には、「吸収分割」と「新設分割」の2種類あります。
①吸収分割
「吸収分割」は、売り手側の一部事業を切り分けて、その権利・義務を買い手側に承継させる方法です。
売り手側は、対価として現金や買い手企業の株式等を取得します。
新設分割に比べると、新たな会社を設立する手間を省けるので、吸収分割の方が移転はスムーズです。
②新設分割
「新設分割」は、売り手側の一部事業を切り分けて、その権利・義務を新たに設立される会社に承継させます。
売り手側は、対価として新たに設立された会社の株式を取得します。
売り手側が非上場企業の場合は、その株式のすべてを現金化することが難しく、設立した新会社が損をするリスクがあります。
「新設分割」は、主に上場企業のM&Aで使われている手法です。
3、M&A(エムアンドエー)のメリット・リスク
次に、買い手(譲受け)側としてのM&Aのメリットとリスクを見ていきましょう。
(1)メリット
- 事業規模の拡大・マーケットシェア向上
- 事業の多角化・新規事業参入の実現
- 商圏・取引網の拡大
- 迅速な事業展開の実現
- 人材の確保
- 技術・ノウハウの取得
- ブランド・信用・取引先・許認可の取得
- 相乗効果(シナジー)の創出
- コスト削減
(2)リスク
- 買収するための資金調達がうまくいかない
- 簿外債務や偶発債務も引き継ぐことになる
- 想定された収益が見込めない
- 想定された相乗効果(シナジー)が見込めない
- 従業員のモチベーションの低下
- 優秀な人材の流出
- 双方の組織統合がうまくいかず機能不全に陥る
- デューデリジェンス(事前の買収監査)で調べきれなかった問題が買収後に発覚する(売り手の表明保証違反や義務違反などの発生)
- のれんの過大評価で、割高な価格で買収し、買収資金を回収できなくなる(のれんの減損リスク)
4、M&A(エムアンドエー)の進め方(流れ・手順)
M&Aを検討・実施する場合、買い手(譲受け)側は、以下の手順で進めていきます。
(1)目的の明確化
自社の現状分析・整理、今後の方向性など、“なぜM&Aをするのか”目的を明確にします。
目的を明確化したうえで、M&Aのどの手法がベストか決めていきましょう。
この段階から、M&A専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
(2)M&A専門家との仲介契約(アドバイザリー契約)
M&Aの意向が固まったら、M&A専門家と仲介契約(アドバイザリー契約)を交わします。
仲介契約を交わしたら、具体的に手続きを進めていきます。
(3)候補企業にアプローチ
買収条件などを整理し、条件に合った会社をM&A仲介会社から紹介してもらいます。
その会社の簡略な情報のみが記載されていて、会社名を伏せた状態のノンネームシート(開示資料)をもらい検討します。
(4)秘密保持契約(NDA)締結
さらに具体的な検討に入りたい案件が出てきたら、売り手(譲渡)側の会社と秘密保持契約書を締結し、より詳細な会社情報を開示してもらいます。
(5)交渉・検討
①企業概要書(IM)の分析
売り手(譲渡)側に、会社概要や事業内容、財務データ、雇用状況などをまとめた企業概要書などを開示してもらいます。
買い手(譲受け)側は、その企業概要書をもとに条件交渉や買収監査(デューデリジェンス)などの次のステップに進むかどうかの判断をします。
※IMとは、Information Memorandum(インフォーメーション・メモランダム)の略です。
②トップ面談
買い手(譲受け)側が企業概要書を精査後、本格的に契約書を交わす前段階として、売り手(譲渡)側と買い手(譲受け)側双方の経営陣が直接面談します。これは条件交渉の場ではなく、M&Aに向けての「意思確認」と「お互いをよく知る」ことが目的です。
③基本合意書の締結
トップ面談がうまく進んだら、M&Aの成約に向けて、仮の契約を締結します。一定期間の「独占交渉権」を発生させるため、まずは「意向表明書」を出した上で、基本合意書を締結。この基本合意書には「いつ」「いくらで」「どのように」会社を買収・譲受けするかを明記していきます。
※独占交渉権とは、その期間、他の候補者との接触は禁止されるものです。
④買収監査(デューデリジェンス)
買収監査は、デューデリジェンスと呼ばれています。
M&A実施の最終判断をするにあたり、買い手(譲受け)側が、売り手(譲渡)側から提供された資料や情報の真偽を確かめるために行われます。
デューデリジェンスでは財務や法務・会計・税務・労務・情報システムなど、売り手(譲渡)側のあらゆる情報を確認していくことが必要です。
非常に重要な工程であり、専門知識が求められるため、一般的には買い手(譲受け)側が専門家に依頼をすることが多くなっています。
⑤最終条件の交渉
デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な条件を検討した後、最終契約の条件交渉を進めます。
(6)契約締結(クロージング)
最終条件の交渉後、双方で合意がされれば「最終契約書」を締結します。
株式譲渡であれば株式譲渡契約書、合併であれば合併契約書のように、スキームによって名称は異なります。
5、M&A(エムアンドエー)にかかる費用・税金
M&Aの事前検討から契約締結(クロージング)までに、買い手(譲受け)側に発生する費用は、大きくは以下3種類あります。
- 買収(譲受け)費用(売り手(譲渡)側に支払う買収(譲受け)金額)
- 買収監査(デューデリジェンス)費用(売り手(譲渡)側の会社の調査にかかる費用)
- 仲介手数料・アドバイザリー費用
仲介手数料・アドバイザリー費用として、具体的には、
- 事前相談料
- 着手金や最低手数料などのイニシャルコスト
- 中間報酬(必要に応じて)
- M&Aが成立すれば買収金額に応じて成功報酬
などをM&A専門家へ支払うことになります。
6、M&A(エムアンドエー)を成功させるために重要なポイント
M&Aは、契約締結が終了したら終わりではありません。
最も重要かつM&Aを成功に導くポイントは、契約締結後の経営統合にあります。
M&A成立後の統合プロセスのことを、PMI(Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)といい、複数の会社を統合していく作業です。
それぞれの経営理念や組織文化・価値観などがかけ離れている場合、混乱や対立を招いたり、優秀な人材が流出したりするため、統合にかなりの時間を要することもあります。
PMIを成功させるためには、M&A成立前から成立直後にかけて、以下の点に留意することが重要です。
- デューデリジェンスの段階で、M&A後に想定されるリスクの対策を計画する
- それぞれの経営層が十分なコミュニケーションと意思統一を図る
- 戦略と経営方針を明確にまとめ上げる
- 経営方針を従業員に周知徹底する
- リーダーは明確かつ具体的な目標に落とし込む
- 適切な人材配置を行う(現場をとりまとめ推進できるリーダーの抜擢など)
まとめ
今回は、M&Aを、買い手(譲受け)側の視点でみていきました。
M&Aには多くのメリットがあります。
一方で、条件よく契約が成立した場合でも、PMIでそれぞれの会社の統合がうまく進まない可能性もあります。
期待された相乗効果(シナジー)が出ないどころか、M&A前よりも悪化するリスクも潜んでいるのです。
リスクを少しでも軽減すべく、準備段階から信頼できる専門家の意見を聞き、自社にとっての最適な相手とマッチングできるように、多角的に検討を進めていきましょう。
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