デューデリジェンスについて買い手側が知っておきたい5つのポイント
デューデリジェンスとは、どのようなものなのだろう……。
デューデリジェンスは、M&Aや投資をする際に非常に重要なプロセスです。
今回は、買い手(譲受)側企業が実施する「デューデリジェンス」に焦点を置いて、
- デューデリジェンスの概要
- デューデリジェンスの流れ
- デューデリジェンスの所要期間や費用
- デューデリジェンスの注意点
などについて、べリーベスト税理士事務所が分かりやすく解説していきます。
この記事が、これからデューデリジェンスを検討している企業担当者様の参考になれば幸いです。
税理士にご相談頂いた方がよい可能性があります。
お気軽にべリーベスト税理士事務所までお問い合わせください。
1、デューデリジェンスとは
「デューデリジェンス(Due Diligence)」とは、企業に求められる、当然行われるべき注意義務のことです。
主に、M&Aや投資をする際の最終契約締結前に、買い手(譲受)側企業が売り手(譲渡)側の企業や事業に関する情報を収集・分析・検討する一連の調査のことをいいます。
省略して、「DD(ディーディー)」と呼ばれることもあります。
(1)デューデリジェンスの目的
デューデリジェンスの目的は、買い手(譲受)側企業が、売り手(譲渡)側企業の正確な情報を総合的に集めて、分析・検討・判断することです。
具体的には、以下6つの目的に分けることができます。
- リスクの把握
- リターン・シナジー効果の把握
- 企業価値評価と買収価格の算出
- M&A実行可否の判断
- 買収(譲受)後の経営統合に向けての準備
- 契約書に記載する事項の決定
①リスクの把握
売り手(譲渡)側企業に、どのようなリスクが潜んでいるのかを調査します。
特に、中小企業においては、管理体制が整っていないことも多く、簿外債務が隠れている可能性もあります。
意図的に隠しているケースもないとは限りませんので、買収(譲受)後の失敗を避ける上でも、リスクの把握は非常に重要といえるでしょう。
②リターン・シナジー効果の把握
M&Aには、
- 売り手(譲渡)企業からのリターンを得る
- 自社とのシナジー効果により売上・利益を拡大させる
といった目的があります。
以上のような効果を、実際どれくらい見込めるのか事前に把握することで、M&A実行後の短期計画・中期計画を想定できるようになります。
③企業価値評価と買収価格の算出
M&Aを実施するためには、売り手(譲渡)企業をいくらで買うか決めなければなりません。
しかし、M&Aにおいての“買収価格”は、財務諸表からはじき出した“企業価値(株式価値)”とは異なります。
企業価値は、買収価格を算出する際の価格算定基準です。
一方で、買収価格は企業価値に加えて、M&Aで得られるシナジーや、簿外債務などのリスクなどから適切な価格を算出していきます。
④M&A実行可否の判断
上記のリスクやリターン、シナジー効果、買収価格を踏まえたうえで、本当にM&Aを実行に移すかどうかの判断をします。
⑤買収(譲受)後の経営統合に向けての準備
M&A実施後は、自社と売り手(譲渡)企業を経営統合するフェーズに入ります。
この統合は「PMI」と呼ばれるものです。
異なる企業理念や制度、組織やシステムなどを統合し、いかにリスクを最小化してシナジーを最大化することができるかといった、M&A成功の重要なカギを握っています。
デューデリジェンスでは、経営統合(PMI)についても事前に調査・準備をすることで、M&A実施後に速やかに統合に取り組むことができ、成功につながりやすくなります。
⑥契約書に記載する事項の決定
一連のデューデリジェンスを行った後、クロージングまでに対応が必要なものや、留意すべき点があれば、契約書に織り込んでいきます。
(2)デューデリジェンスの種類
デューデリジェンスの調査範囲は、財務・税務・法務・事業・人事・システム(IT)など、多岐にわたります。
しかし、一般的に中小企業がM&Aを行うにあたってデューデリジェンスを行う場合は、主に「財務」「税務」「法務」のデューデリジェンスを行うことが一般的です。
昨今では、SDGsが世界規模で重要課題にもなっていますので、環境対策を適切に行なっているかについての「環境デューデリジェンス」の必要性も出てきています。
本項では、デューデリジェンスの種類を紹介します。
①財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスでは、財務諸表などから、
- 過去の業績推移
- 収益性と事業計画の整合性
- 資産状況
- 投資状況
- 簿外債務の有無
- キャッシュフローの状況
- 内部統制の状況
など、財務に関連する項目を調査します。
特に、中小企業の場合、決算書と実態がかけ離れていることもあるため注意が必要です。
②税務デューデリジェンス
税務デューデリジェンスは、
- 過去の税務申告内容や納税状況
- 税務調査の際の指摘事項
などを調査し、税務リスクを洗い出すことを目的としています。
万が一、繰越欠損金などがあれば、買収価格に折り込んだり、M&A後に引き継ぐようなスキームを検討したりすることになります。
③法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスは、想定されるリスクを調査し、結果次第ではM&Aの手法検討や、契約内容に反映させます。
調査対象は、
- 会社の沿革
- 登記状況
- 株主名簿
- 取引内容
- 許認可の有無
- 訴訟の有無
- 法令違反の有無
などがあり、法律の観点から調査します。
特に、「許認可の有無」や「訴訟の有無」の調査は重要です。
許認可を引き継ぐことができなければ事業は継続できず、訴訟を抱えていれば賠償金を支払わなければならないというリスクがあります。
④事業デューデリジェンス
事業デューデリジェンスは、売り手(譲渡)企業の経営・事業が調査対象です。
調査項目は、
- 取引先
- 顧客
- 競合
- 製品・サービス
- 保有する特許・技術・商標
などです。
これらから、収益性や将来性、シナジー効果や想定リスクなどをビジネス観点で分析し、M&Aするに見合う企業あるいは事業かどうかを見極めていきます。
⑤人事デューデリジェンス
人事デューデリジェンスでは、
- 人事制度
- 労務状況
- 労使関係
- 評価制度
- 採用状況
- 人員数
- 人件費
など、人事関連の項目が調査対象です。
M&A後の経営統合(PMI)が成功するかどうかは、「人事制度をうまく統合し機能させることができるか」が非常に重要なポイントです。
PMIで齟齬が生じ、優秀な人材が流出したり、社員のモチベーション低下で生産性が下がったりすることがないように、人事デューデリジェンスが必要となります。
調査結果を踏まえて、必要に応じて条件のすり合わせなどを行いましょう。
⑥システム(IT)デューデリジェンス
システム(IT)デューデリジェンスは、情報システムに対する調査です。
具体的には、
- 基幹システム(※)
- セキュリティ状況
- システム投資状況
を調べます。
基幹システムは、財務会計・管理会計・販売管理・仕入管理・人事労務・顧客管理などです。
状況次第では、M&A後にシステム統一やシステム入れ替えなどが必要で、多額の投資を要する可能性もあります。
調査結果を踏まえて、M&A後のシステム統一・改修・入れ替えなどの方向性を決め、その費用や時間などを考慮しておく必要があります。
2、デューデリジェンスの手順
デューデリジェンスの概要や種類がわかったところで、次はデューデリジェンスの手順についてみていきましょう。
(1)デューデリジェンスが行われるタイミング
M&Aを検討・実施する場合、買い手(譲受)側企業は以下の手順で進めることが多くなっています。
- M&A専門家とのアドバイザリー契約
- 候補企業にアプローチ
- 秘密保持契約(NDA)締結
- 企業概要書(IM)の分析
- トップ面談
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンス(買収監査)
- 最終条件の交渉
- 最終契約・クロージング
デューデリジェンスは、基本合意契約の後に行われます。
基本合意契約の前は、まだ売り手(譲渡)企業は買い手(譲受)企業を絞り込めていない状態です。
しかし、基本合意契約まで締結していれば、売り手(譲渡)企業が買い手(譲受)企業とのM&Aを前向きに捉えているということになります。
デューデリジェンスにあたっての必要書類の提出など、手続きを迅速に進めてもらうことができるでしょう。
(2)デューデリジェンスの流れ
デューデリジェンスは、具体的にどのように進めていくのでしょうか。
以下、順番に流れをみていきましょう。
①調査チーム決め(誰が「デューデリジェンス」を実施するのか)
「デューデリジェンス」を実施するにあたっては、以下3つの方法があります。
● 社内でチームを編成し実施する(自社内に専門家がいる場合は実施可能)
● 外部の専門家に依頼する(専門家に任せた方が安心だが、コストがかかるので予算次第)
● 外部の専門家と分業する(多角的に調査する場合、自社と外部専門家で分業して進める)
デューデリジェンスは、調査対象となる範囲も広い上に期間が短く、専門知識を必要とするため、外部の専門家に依頼することが一般的です。
社外の第三者として客観的に評価をしてもらうことで、M&Aの実行の可否や買収価格の妥当性などを判断することができ、重大なリスクを見逃すリスクも軽減されます。
一方、専門家に依頼する場合も、任せっきりにするのではなく、積極的にコミュニケーションをとり、様々なアドバイスをもらいながら進めることが大切です。
②売り手(譲渡)企業との秘密保持契約締結
デューデリジェンスでは、売り手(譲渡)企業の重要な情報を閲覧します。
さらに、M&A成立前にお互いの情報が外部へ漏れるリスクをなくすために、事前に秘密保持契約を締結します。
③調査実施方針決め
必要な調査を一定期間で完了できるように、調査方針を決めます。
複数あるデューデリジェンス項目のうち、どのデューデリジェンスを実施するのか
何を重点的に調査するのか
調査にかけられる予算はどのくらいか
いつまでに調査を終わらせる必要があるか
といったことを決めていきましょう。
④基本情報の入手・確認
デューデリジェンスを始める前に、売り手(譲渡)企業から以下の基本情報を入手し、その後の調査が効率的に進められるように情報を整理しておきます。
● 会社情報(会社概要・定款・謄本・株主名簿など)
● 財務・税務情報(決算書・税務申告書など)
● 事業・組織情報(事業概要・仕入先・販売先状況・組織図など)
● 人事・労務情報(役員・社員名簿・人事・労務規定など)
● 契約書(不動産契約・リース契約・取引契約など)
● その他(許認可・係争の有無・特許・偶発債務・子会社・関連会社など)
⑤キックオフミーティングの実施
入手した基本情報を、調査に関わる社内で編成したデューデリジェンスチーム、あるいは委託する外部の専門家と共有しましょう。
デューデリジェンスのポイントとなりそうな事項や、今後の進め方・スケジュールなどを決定していきます。
⑥資料請求リストの作成・提出依頼
デューデリジェンス実施にあたっては、基本情報だけでは足りません。
各デューデリジェンスの種類ごとに、必要な資料リストを作成して、売り手(譲渡)企業に追加資料の提出を求めていきます。
リスト作成を複数の専門家に委託する場合は、請求リストに同じ項目が複数記載されないように、一旦社内で取りまとめてから売り手(譲渡)企業に提出依頼しましょう。
⑦開示資料の調査(確認・分析)
売り手(譲渡)企業から必要資料を受け取ったら、資料を整理し、正確性・整合性などを確認し、分析を進めます。
その中で、さらに必要な資料があれば追加で依頼していきましょう。
⑧インタビュー、質疑応答、現地調査の実施
資料だけでは得られない情報を確認するため、売り手(譲渡)企業の経営陣やキーマンへのインタビュー(聞き取り調査)を実施します。
抜け漏れがないように、事前に質問リストを作成した上でインタビューに臨みましょう。
インタビューは、一般的には売り手(譲渡)企業へ訪問して行います。
資料やインタビューからだけでは分からない実態も把握するため、オフィスや工場、店舗や施設、設備などの現地に出向き、自分たちの目で現場を確認しておくことも重要です。
⑨専門家から報告を受ける
専門家に依頼した場合は、専門家から「デューデリジェンス」の結果報告書が提出されます。
それを受けて、買い手(譲受)側の経営陣は、その売り手(譲渡)企業がM&A対象としてふさわしいかどうかを議論します。
⑩調査結果を踏まえて最終判断
専門家からの調査結果も踏まえて、デューデリジェンスの最終結果を報告書にまとめ、M&Aを進めるか中止するか、最終的な経営判断を下します。
問題やリスクが想定内であれば、条件交渉や価格交渉、契約書交渉などに進みましょう。
一方で、想定外の問題点やリスクが発見された場合や、リスクがリターンやシナジー効果を上回る可能性が高い場合は、M&A後に損失を出す可能性も高まります。
契約内容や買収価額を見直して改めて交渉を行うか、M&Aそのものを見直すことになります。
3、デューデリジェンスに必要な項目
デューデリジェンスに必要な項目として、デューデリジェンスにかかる期間と費用について解説します。
(1)デューデリジェンスの期間
デューデリジェンスには、どのくらいの期間が必要なのでしょうか?
売り手(譲渡)企業の規模や調査する範囲によっても異なりますが、概ね1〜2ヶ月程度はみておいた方がよいでしょう。
あくまで参考ですが、以下は各フェーズごとの調査期間の目安です。
フェーズ | 調査期間 |
準備・基本資料確認・資料請求 | 2週間 |
調査・インタビュー・現地調査 | 数日~2週間 |
調査結果の分析・レポート作成 | 1~2週間 |
追加分析・最終レポート作成 | 1~2週間 |
(2)デューデリジェンスに係る費用
「デューデリジェンス」を実施する場合、どの程度の費用がかかるのでしょうか。また、相場はどのくらいなのでしょうか。
実際には、対象とする企業や調査内容によって全く違ってくるため、一概にいくらといった費用相場はありません。
依頼する専門家の知識や経験、レベルによっても大きく変わってきます。
すべてのデューデリジェンス項目を網羅的に実施の依頼をした場合、その費用はかなり高額になるでしょう。
費用をおさえたいのであれば、リスクの高い項目にフォーカスさせるという方法もあります。
なお、中小企業がデューデリジェンスを行う場合は、法務・財務、税務デューデリジェンスを外部の専門家に依頼することが一般的です。
4、デューデリジェンスを行う際の注意点
買い手(譲受)企業がデューデリジェンスを進めるうえで注意すべきポイントは、以下3点です。
(1)優先順位をつけてデューデリジェンスを行う
デューデリジェンスの対象範囲を広げれば広げるほど、売り手(譲渡)企業の状況がよく分かり、あらゆるリスクを把握することが可能になります。
しかし、デューデリジェンスにかける費用や時間には限りがあります。
デューデリジェンスの対象範囲は事前に整理して、優先順位をつけ、必要に応じて範囲を絞ることも必要です。
(2)注意すべき項目や質問事項を事前にチェックリストにまとめる
デューデリジェンスの各調査において、事前に注意すべきポイントや必ず確認すべき項目などは、チェックリスト化しておきましょう。
肝心なことが抜け漏れることがないように進めることが大切です。
インタビューの際の質問内容も同様に、チェックリストを作成して臨むことをおすすめします。
(3)入手した情報の管理を徹底する
M&Aは成立するまでは、限られたメンバーで秘密裏に進めていきます。
売り手(譲渡)企業から入手した情報の取り扱いには、厳重に注意し、情報管理を徹底しましょう。
まとめ
今回は、企業担当者が知っておきたいデューデリジェンスについて解説しました。
リスクを抑え、リターンとシナジー効果を最大化できるようなM&A成立のためには、正確かつ迅速なデューデリジェンスが不可欠です。
必要に応じて、専門家をうまく活用しながら、円滑にデューデリジェンスを進めていきましょう。
税理士にご相談頂いた方がよい可能性があります。
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