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TAX&ACCOUNTING MALL会社経営財務デューデリジェンスはM&Aで最も大事?知っておきたい5つのこと
2022.6.17 / 更新日:2022.06.16

財務デューデリジェンスはM&Aで最も大事?知っておきたい5つのこと

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財務デューデリジェンスとは、具体的にどのような流れで進めるのだろう……。

「デューデリジェンス」は、M&Aや投資をする際に非常に重要なプロセスで、対象企業をより深く調査し、分析・検討・判断するためのものです。
調査範囲は、財務・税務・法務・事業・人事・システム(IT)など、多岐にわたります。

今回は、数あるデューデリジェンスの中でも、M&Aにおいて最も重要といえる「財務デューデリジェンス」に焦点を当てて、

  • 財務デューデリジェンスの概要と目的
  • 財務デューデリジェンスの主要調査内容
  • 財務デューデリジェンスの流れ
  • 財務デューデリジェンスで識別したリスクへの対応

について、べリーベスト税理士事務所が分かりやすく解説していきます。

この記事が、財務デューデリジェンスについて詳しく知りたいと考えていらっしゃる担当者様の参考になれば幸いです。

デューデリジェンス全般については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
デューデリジェンスについて買い手側が知っておきたい5つのポイント

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1、財務デューデリジェンスとは

まずは、財務デューデリジェンスの概要と目的について解説します。

(1)財務デューデリジェンスの概要

財務デューデリジェンスとは、主に対象企業の過去の財務諸表に着目し、そこからリスクの識別を行う調査手続です。

具体的には、財務諸表などから

  • 過去の業績推移
  • 収益性
  • 事業計画の整合性
  • 資産状況
  • 投資状況
  • 簿外債務の有無
  • キャッシュフローの状況
  • 内部統制の状況

など、財務に関連する項目を調査します。

特に中小企業の場合、決算書と実態がかけ離れている場合もあるため注意が必要です。

(2)財務デューデリジェンスの目的

財務デューデリジェンスの目的としては、次の4つです。

  • 財務リスクの分析
  • 買収価格の決定
  • 契約条項への反映
  • 利害関係者への説明根拠

①財務リスクの分析

財務デューデリジェンスは、契約前に対象企業の持つ財務上のリスク要因を洗い出し、論点を整理する目的で行なわれます。

②買収価格の決定

財務デューデリジェンスでは、対象企業の財務状況・リスクを把握し、最終的に買収価格を決定します。
その間に、必ず価格交渉が入りますので、真の企業価値の算出根拠につながる必要な情報を整理しておきましょう。

③契約条項への反映

財務デューデリジェンスで判明する事項は、最終契約書のうち、

  • 前提条件
  • 表明保証
  • 誓約事項
  • 補償条項

に密接に関連します。

具体的には、事実と異なることが判明したら売手へ責任追及ができる規定を定めたり、表明保証や誓約事項に違反した際の金銭的補償を予め最終契約書に折り込んだりします。

現在は、企業価値評価に直接反映させる必要がない事項であっても、買収後に違反などが発覚することも考えられるでしょう。
重要度に応じて契約内容に折り込めるよう、綿密に分析しておくことが大切です。

④利害関係者への説明根拠

M&Aを実施する場合、株主・取引先・従業員などの関係者に対する説明責任を果たすことも重要です。
「このM&Aが合理的である理由」を、定量的に説明する必要があります。

2、財務デューデリジェンスの主要調査内容

財務デューデリジェンスの概要と目的を理解していただいたところで、次は財務デューデリジェンスの主要調査内容について解説します。

調査内容は、大きく以下の4つです。

  • 前提確認
  • 損益状況
  • 財政状況
  • 資金繰り状況

詳しくみていきましょう。

(1)前提確認

前提確認としては、

  • ビジネス構造の分析
  • 管理体制・体質/内部統制の確認

について調査しましょう。

①ビジネス構造の分析

まずは、財務諸表分析の前提となる

  • 事業構造
  • 商流
  • 市場リスク
  • 業界リスク

などのビジネス構造を分析します。

②管理体制・体質/内部統制の確認

対象企業の経理・財務の

  • 業務分掌
  • 業務フロー
  • 承認体制
  • 人員数
  • 使用している会計ソフト

などを確認します。

特に、経理・財務業務などの管理体制が不十分な場合、開示資料の内容も正しくない可能性があります。
不正等のリスクも考えられるため、体制や体質は必ず事前にチェックしておきましょう。

(2)損益状況(PL:損益計算書)

損益状況としては、対象企業の過去からの損益推移の分析によって収益性を確認し、将来の事業計画の蓋然性を検討します。

①損益構造の分析

正常収益力分析の前提として、過去の損益の変動要因や限界利益構造(変動費・固定費)を分析します。

②正常収益力分析

過去から現在までの業績推移に基づき、収益構造やコスト構造を分析します。
損益の変動要因や、事業計画値との乖離などの理由を調査し、M&A後に期待される対象企業(あるいは事業)の正常収益力(※)を予測します。

※正常収益力とは、M&Aにおける財務デューデリジェンスで最も重要な分析項目です。売上あるいはEBITDAに関して過去のイレギュラーな取引や営業外項目の影響を除いて、その企業の実質的な収益力を測定します。

(3)財政状態(BS:貸借対照表)

財務状態では、純資産を算定し、特に負債側に隠れたリスクがないかを確認します。
基準日を決め、その時点での実態としての純資産を調査し、M&Aによるシナジー等を考慮しない状態での価値を把握しましょう。

もし、BS(貸借対照表)に反映されていない簿外債務や、資産・負債の含み損益などがある場合は、純資産から除いて算出します。
以上のような債務について、財務デューデリジェンスで発見できずにM&A後に発覚した場合、その債務の責任を負うことになるので要注意です。

本項では、財政状態の代表的な4つの項目を挙げておきます。
減損リスクなどが潜んでいる場合もあるため、ヒアリングなども合わせて確認していきましょう。

①運転資本の検証

運転資本とは、通常の営業活動に投下されている資金で、一般的に次のように算定したものを指します。

(売上債権+棚卸資産+その他流動資産)-(仕入れ債務+その他流動負債)

過去の実績から、将来の正常な運転資本の水準を予測し、適切な企業価値評価を行います。

②設備投資分析

過去の設備投資などの実績を分析することで、将来の設備投資の必要額や周期を推定します。

③ネットデットの調整

ネットデットは、借入金や社債などの有利子負債から現預金などを差し引いた、正味の有利子負債のことをいいます。
株式価値を算定していく中で、ネットデットの調整を行います。

④潜在債務の洗い出し

簿外債務や潜在債務の有無を確認し、企業価値評価に影響する内容を押さえていきます。
例えば、

  • 継続的予算未達
  • 減損リスク
  • 未払い賃金などの労働債務
  • 将来的訴訟リスク
  • 係争中の訴訟案件

などから生じる潜在債務などがあります。

(4)資金繰り状況(CF:キャッシュフロー)

キャッシュフロー計算書とは、
期首からどのようにキャッシュが出入りしたのか
期末の残高はいくらか
を算定するための会計書類です。

過去3期程度のキャッシュフロー推移から、「M&A後に追加で必要となるキャッシュはどれくらいなのか」を分析します。

キャッシュフローは3種類あります。

キャッシュフローの種類 何がわかるか
営業キャッシュフロー 本業でどれだけキャッシュを生んでいるのか
投資キャッシュフロー 本業で得たキャッシュ投資後の増減
財務キャッシュフロー 会社が必要な資金をどのように調達しているか

M&Aなどの支出は、「投資キャッシュフロー」です。
また、「財務キャッシュフロー」では、銀行からの借入や返済など、資金調達に関係するお金の出入りが見て取れます。

3、財務デューデリジェンスの流れ

次に、財務デューデリジェンスの流れについて把握しましょう。

(1)専門家への依頼

財務デューデリジェンスは、財務の専門家である公認会計士や監査法人などに、業務を依頼するケースが多く見られます。
外部の専門家に客観的に評価してもらったうえで、自社の視点から分析・検討をするのが望ましいでしょう。

(2)初期分析と資料開示請求

まず、最初の1〜2週間で対象企業の初期分析を行い、不足する情報は対象企業に資料開示の依頼をします。
対象会計年度は、直近決算期を含む過去3年間程度が一般的です。

(3)ヒアリング調査・質疑応答

開示請求をした資料が揃ったら、本格的に財務デューデリジェンスがスタートします。
会社にもよりますが、おおむね1ヶ月程度で、

  • 資料の閲覧
  • 経営者・実務担当者へのヒアリング調査
  • ヒアリングに基づく質問と回答のやりとり(質疑応答)

以上のことを繰り返し行い、財務分析とリスクの洗い出しを行います。

特に、ヒアリングは、書面では判断できない項目や数値の裏付け確認の役割も担っているのです。

(4)調査結果報告

「(2)初期分析と資料開示請求」「(3)ヒアリング調査・質疑応答」から、財務デューデリジェンスの分析結果をまとめ、報告します。

調査結果報告には、現状分析から、

  • M&Aリスク
  • 企業価値の算出
  • 将来に向けての提案

などを含みます。

4、財務デューデリジェンスで識別したリスクへの対応

デューデリジェンスを通して判明したリスクには、どのように対処するのでしょうか。
数字で示せるものに関しては、企業価値評価(買収価格)へ反映させます。

一方、数字で明確に示せない事項に関しては、最終契約書に条項を追記することでリスクヘッジをします。

具体的には、

  • 前提条件
  • 表明保証
  • 誓約事項
  • 補償条項

へ、密接に関連付けしていきます。

さらに、M&A後を見据えて、PMI(統合プロセス)で起こりうるリスクへの対処を盛り込んだ計画を、早めに策定しておくことが望ましいでしょう。

まとめ

今回は、デューデリジェンスの中でも最も重要な財務デューデリジェンスについて解説しました。

財務デューデリジェンスは、M&A実施の意思決定を適切に行うために必要不可欠なプロセスです。
専門性を要する分野のため、より効率的にM&Aを進めるために専門家に依頼する企業は多くなっています。
依頼の有無に関わらず、まずは財務デューデリジェンスの概要と要点を正しく理解しておきましょう。

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この記事の監修者

荒井悠輔
荒井 悠輔

べリーベスト税理士事務所 経営企画室シニアマネージャー
株式会社ベリーベストサポートオフィス 代表取締役
資格の大原税理士講座簿記論講師、
文化服装学院ファッション流通高度専門士課タックスアカウンティング講師を務める。
筑波大学大学院において、法人税法及び国際税務を研究し、修了。
現在は経営企画、セミナー、講師、論文・記事の執筆を中心に活動を行っている。